cafe kipferl後編 お店のカタチ。

「食の一期一会」

それはかつて中野のウナ・カメラ・リーベラの頃からそうだった。

もちろん本当にメニューがないわけじゃない、

店に入れば、黒板にメニューは丁寧に書いてあるし、

いつも安定したおいしさを提供してくれる

定番のカレーやナポリタンもある。

でも、毎日でも行かない限り、

行くたびにメニューはいつも新鮮さを保っている。

それはそのまま季節の味と言ってもいいかもしれない。

いつも同じ味を提供してくれるチェーン店もいいけれど、

たまにはそんな店に足を運ぶのもいいかもしれない。

自分の固定概念で思ってたお店のカタチだけじゃない、

違うやり方がいっぱいあるんだっていうのを教えてもらった

cafe kipferl

interview by Kotomi Akiba

photography & words by Nariya Esaki

「自分でお店を持ってしまえば、自分がトップでやってる限り、仮にひとりでやってても、ま、生きてる間は現場にいられるわけで、そこで自営業だったら、定年ももちろんないですし、カラダが動く限りはやってられる、そういう面を求めたのが一番ですね。」

それは８年間勤めた飲食店をやめるきっかけにもなったことだった。それが直接的なきっかけではなかったのかもしれないけれど、ひとつの要因になったのは確かだろう。そしてそう思い始めたらすべきことはひとつかもしれない。

「そういう方向に行くために、目標があって逆算してじゃないですけど、７０になっても現場にいるってことを逆算していくと、だいたい何歳くらいでこれだけのことが出来るようになってて、まぁ、何歳くらいのときまでに独立しておけば体力的にも余裕あるしっていうところで、ちょうどいいタイミングも重なってっていうところですかね」

ちょうどいいタイミングというのが、ウナ・カメラ・リーベラとの出逢いだった。でももちろん、そこにも逆算があった。

「２０１３年ですよね、なぜか２０１３年になったら、攻めようと思ってたんです。２０１２年までは割りと溜め込む時期っていうか、蓄積するだけの時期にしておいて、２０１３年になったら自分からどんどん足を運んで、動き始めようと思ってたんですよ。」

でも動き出してすぐにウナ・カメラ・リーベラに出逢ったわけじゃなかった。

「自分の固定概念で思ってたお店のカタチだけじゃない、違うやり方がいっぱいあるんだっていうのを教えてもらったんですよね。その２人に」

もちろんひとりはウナ・カメラ・リーベラのオーナー。そして実は、もうひとり。

「まず２０１３年すぐにフランスから来たシェフの話を聴く機会があって」

それはそれまで悶々としていた、お店を開くことに対する、ある種の不安と不満を晴らすものだった。

「その漠然としてて、どうしたらカタチになるんだろう？っていうのを一瞬でカタチにして魅せてくれたのがそのフランス人なんです。生産者とお店をつなぐやり方が、今のやり方じゃない方法もあるんだっていう、凄くばーっと選択肢が増えたというか、自分の視野も広がって、もっと何でもありでいいんじゃないかていう」

その考え方があったからこそ、ウナ・カメラ・リーベラの自由な考え方がスッと入って来たと言っても良いだろう。そして実はそんな生産者とお店をつなぐ人に出逢ったのは偶然にもウナ・カメラ・リーベラで初めて、キプフェルをやる日のことだった。

「ミーティングは出てて、その日だけ空いてるからやらないっていう話で。空いてるならやりますって言って、それだけだったんですよ。で、つづくと思ってなかったんで、それで行って、荷物かなんか引き上げて来るときに」

偶然、ウナ・カメラ・リーベラの近くで野菜の見本市みたなものをやっていたので、立ち寄ってみたら、今も取引が続く仕入れ先の人と出逢う。何だか出来すぎているようだけど、本当なのだから仕方がない。

出来すぎと言えば、物件も早く見つかって、キプフェルは予定より８ヶ月も早くオープンすることになる。

「それはここが偶然見つかったっていうのもあるんですけど」

でもその２人との出逢いが何より大きかったのは言うまでもないだろう。いや、仕入れ先の人も入れれば３人、いや、最初の１年を支えてくれたスタッフのユキちゃんまで入れれば４人かもしれない。いや...言えばキリがないほど出て来そうだ。でもそれは一度、一度の出逢いを大事にして来たからこそ、紡ぐことが出来た証だろう。

だからこそキプフェルの料理には一期一会を感じるのかもしれない。

そしてそれはまちのことについて聞いて返って来た答えにもどこか表れているような気がする。

「たまたま今ここにいるだけの場所なんです。どこに住んでてても。あんまり頓着はしないですね。旅先に行ったら、その旅先に住んでるような感覚で滞在するんですよ。だからここも長い旅の途中で、滞在してるだけの場所なんです」

（つづきます）

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